岡八の物語

はじまり
三重県松阪市の山あいに、一軒の古い家があります。 祖父母が暮らし、家族が集い、季節を重ねてきた家です。幼い頃、この家には竈の火があり、お茶の香りが漂い、人の笑い声が響いていました。 時代が変わっても、この家には静かな時間が流れています。岡八は、古民家を残すための場所ではありません。 家と時間をつなぐ。 その想いから、この場所は少しずつ歩み始めました。 完成を目指すのではなく、歳月とともに育っていく場所でありたいと願っています。
なぜ残すのか
仕事や子育てに追われるなかで、岡八を訪れる機会は少しずつ減っていきました。 祖父母がこの家を離れたあとも、伯父が三十年近く、この場所を守り続けてくれました。 ある日、新幹線の車窓を眺めながら、何気なくスマートフォンを開きました。 そこに映っていたのは、空き家バンクに掲載された岡八でした。その瞬間、「少年時代を過ごした場所を失うかもしれない。」そう感じました。 このまま岡八が誰かの手に渡れば、きっとこの家は美しく生まれ変わるのでしょう。新しい設備が入り、床が張られ、暮らしやすい快適な家になるのかもしれません。 しかし、私が残したかったのは、新しい家ではありませんでした。 竈の煙に燻された梁。 湿気を含んだ土間。 幾世代もの暮らしを刻んだ柱。 人の手では決してつくることのできない、時間の層。 お金では買えない時間の層を未来へつないでいきたい。 岡八は、完成された場所ではありません。手を入れ、育て、歳月を重ねながら、岡八はここを訪れた人々とともに物語を紡いでいく場所です。
これから
春には新芽が芽吹き 夏には風が土間を抜け 秋には実りを味わい 冬には火を囲む。 季節とともに、この場所も少しずつ育っていきます。 ここを訪れる人が、肩の力を抜き、お茶を飲み、語り合い、静かな時間を過ごせること。それだけで十分です。 岡八は、これからも歳月とともに育ち続けます。 岡八 世話人