Feature
岡八の物語

はじまり
三重県松阪市の小さな山あいにある、一軒の古い家。 ここは、祖父母が暮らし、家族が集い、四季を重ねてきた場所です。 幼い頃、この家には竈門の火があり、お茶の香りがあり、人の笑い声がありました。時代が変わり、人が少なくなっても、この家には今も変わらない空気が流れています。 「岡八」は、古民家を保存することが目的ではありません。 この場所に流れる時間や、人と人とのつながり、自然とともに暮らす豊かさを、次の世代へ受け継いでいきたい。そんな想いから、この家の再生が始まりました。 茶畑に手を入れ、庭を整え、建具を磨き、一つひとつ丁寧に暮らしを育てていく。完成を目指すのではなく、歳月とともに少しずつ育っていく場所でありたいと考えています。 ここを訪れた人が、肩の力を抜き、季節の移ろいを感じ、お茶を飲みながら語り合える。そんな穏やかな時間が流れる場所になることを願っています。 岡八の物語は、まだ始まったばかりです。
なぜ残すのか
人生には、稀に理屈では説明のできない「縁」があるのだと思います。 仕事や子育てに追われる日々のなかで、祖父母が暮らしたこの家を訪れる機会は、少しずつ減っていきました。思い出は心の中にありながらも、岡八は静かに歳月を重ねていました。 仕事に追われ忙しく飛び回っていたある日、新幹線の中で何気なくスマートフォンを眺めていると、一枚の写真が目に留まりました。空き家バンクに登録され、そこに写っていたのは、祖父の家でした。 「祖父の家が売りに出されている。」 もし、あの日あの写真を見つけていなかったら。 もし、ほんの少しタイミングが違っていたら。 岡八は、私たち家族のもとを離れていたのかもしれません。 あの日の出会いは偶然だったのか、それとも導かれたものだったのか。今でも答えは分かりません。 けれど私は、この家に「もう一度戻っておいで」と呼ばれたような気がしています。 岡八を残す理由は、古い家を保存するためではありません。 ここには、祖父母が生きた時間があります。茶畑があります。火を囲み、笑い合った家族の記憶があります。 そして、この場所には、人と人とをつなぐ力があります。 忙しい日々のなかで立ち止まり、お茶を飲み、語り合い、四季の移ろいを感じる。 そんな時間こそ、本当の豊かさではないかと思うようになりました。 だから私は、この家を未来へつないでいきたい。 子どもたちへ。そのまた次の世代へ。 そして、この場所を訪れてくださるすべての方へ。 岡八は、完成された場所ではありません。 手を入れ、育て、歳月を重ねながら、人とともに物語を紡いでいく場所です。 あの日、空き家バンクで岡八と再会したことが、この新しい物語の始まりでした。
これから
岡八は、完成を目指す場所ではありません。 少しずつ手を入れ、 少しずつ景色を育て、 少しずつ思い出を重ねていく。 そんな場所でありたいと願っています。 春には新芽が芽吹き、茶畑が鮮やかな緑に染まる。 夏には深い木陰に風が通り抜ける。 秋には実りを味わい、冬には囲炉裏や灯りを囲んで語り合う。 四季を感じながら、人が自然と集まり、ゆっくりと時を過ごせる場所を育てていきたいと考えています。 この場所には、効率や便利さでは測れない豊かさがあります。 土に触れ、お茶を育て、古い建具を磨き、一杯のお茶をゆっくり味わう。 そんな何気ない時間が、心を整え、人と人との距離を近づけてくれると信じています。 いつの日か、ここでお茶を囲みながら語り合える日が来ることを楽しみにしています。 初めて訪れる人にも、久しぶりに帰ってくる人にも、 「ただいま」と、自然に言いたくなるような場所でありたい。 岡八は、これからも歳月とともに育ち続けます。 そして、その歩みを、この場所を訪れてくださる皆さまと一緒に重ねていけたら、これ以上の喜びはありません。